病気療養児の家族・支援者向けサポートブック
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は就職などのライフステージを移行する中で、精神的にも急激な変化を遂げます。「一人ではできなかったことが、できるようになった」とか「親にしてほしかったことが、してほしくなくなった」ことも増えていきます。思春期に差し掛かると、「心は親から離れたいけど、体や病気のことは不安なので親に気にかけてほしい」といった自立心と依存心の葛藤が親子関係に緊張をもたらすこともあります。また、子どもの望む進路と、親が考える現実的で心身に過剰な負担にならない進路への思いとの衝突が生じることもあります。お父さん・お母さんにとって、病気が再発しないことが最優先事項になることは自然なことですので、「助言を控えること」や「待つこと」、「見守ること」は、子どものことを思えば思うほど難しい課題となります。 でしょうか。ただ、これが日常的になると、子どもが「自分の人生の主人公は他ならない自分である」と感じたり、周囲の期待よりも自分で選びたいことを重視したり、自分で病気を管理したり体調に気を配ったりすることが難しくなることがあります。発達的な視点からみると、人生の重要な場面で頑なに自分の思いを通そうとしたり、無理な選択をしているような様子は、アイデンティティの獲得、主体性の向上、病気の自己管理能力の高まりといった精神的な成長のしるしと捉えることができます。本人が納得したうえでの進路選択の経験は、その後の深い心理的な成熟につながることも少なくありません。 違が生じた時に大切なのは、「自分の気持ちが理解されない」「一方的に決められる」と子どもが感じるのではなく、「お互いが何故そちらがよいと思うのか」という背後にある理由を伝え合い、理解し合うことです。 病気を抱える子どもたちは進級・進学、あるいこれまでに「親心からつい一言多くなった」経験のあるお父さん・お母さんも多いのではない進路選択の局面に限りませんが、子どもと親との間で病気やその管理に関する考え方に相お父さん・お母さんから「ここまではサポートもするし、あなた(子ども)の願いを尊重する。ただし、ここからは負担が大きすぎるから、親の気持ちも理解してほしい」といった具体的な境界線や判断の基準を伝え、話し合うことが大切です。これらの経験を通して、「病気のことで無理なこともある」が、「無理だと思っていたこともサポートや工夫によって可能になることもある」など、気持ちに折り合いをつけることができ、次の選択時にも家族で相談しながらチャレンジできるようになることも期待できます。 その子どもの進路選択は誰にとっても初めての経験です。親の接し方が、子どものために必要な手助けなのか、それとも親の不安から生じる過干渉なのかなどを判断するのは難しいものです。にもかかわらず、これらは「家族の中で何とかするしかない」と認識されていたり、誰かに相談するという発想にすら至っていないことがあります。このような状況で役立つと考えられるのは、同じような経験をした当事者とのつながりです。似たような経験や感情を共有する中で、思いもしなかった現実的な解決策が見つかったり、これまで家族だけで対処しようとしていた焦りや孤独感が軽減されることがあります。また、自分と同じ悩みを持っている人たちが他にもいるのだという気づきが、わずかでも気持ちを楽にすることもあります。何よりも「困っている時、アドバイスが欲しい時」に信頼できる他者や機関に話や、相談をしている親の姿は、子どもにとって良いロールモデルとなるように思います。 慢性的な病気との付き合いは長期にわたります。予想外のことに戸惑ったり、将来を憂いたりすることもあるかもしれませんが、家族として共に歩む喜びや楽しみを大切にしながら、かけがえのない今を過ごしていかれることを願っています。 5 国立大学法人大阪教育大学 教員養成課程 特別支援教育部門 平賀 健太郎 准教授 病気療養児を育てるお父さん・お母さんにお伝えしたいこと

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